韓国、水を描くバンド
韓国のバンドシーンが面白くて、ハマり始めてから約2年が経とうとしているのに、未だ新たな面白さを見つけてはぷかぷかと浸かってしまっている。いつか書きたいと思っていたバンドについての記事を今回ようやく書く気になったので、この機にわたしが今面白いなと思っているバンドについて書き残しておきたい。随時(書く気になれば)更新予定。
1. 水と交差するバンド The Poles
- 躍動する若さ、波打つ瞬間たち
人が人生を生きながら時折出会うこととなる連続的な瞬間の高まりを「瞬間の極点(= The Poles)」と呼び、その極点の儚さ美しさを現代的ロックに乗せて歌う。メンバーは教会で出会った97年生まれの3人。ボーカル・キムダニエル、ドラム・キムキョンベ、ベース・イファンジェ。その年の若さと、まるで映画のワンシーンのように運命的な美しい瞬間を積み重ねて築かれた歴史は、彼らの音楽性を彷彿とさせる。2022年1月15日発表の正規アルバム「The Hide Tide Club」には、何度もぶつかり合い悩みつくした若い彼らの苦悩と葛藤が盛り込まれた。一日の中で一番海水面の高い満潮(High Tide)にちなんで名づけられたアルバム「The Hide Tide Club」は、The Polesとしてのこれまでと、悩みの末に確立された彼らの音楽性が痛いほどに伝わってくる名作である。
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とりあえず聞いてみてほしい 最高なので
- 音楽的世界観に「水」を据える人・キムダニエル
3人組バンド「The Poles」を語る上で外せないのが、97年生の鬼才キムダニエルの存在である。
彼らのカバージャケットを担当しているホンスンギさんの撮った写真(だったと思う)。アートワークの美しさも彼らの音楽の魅力のひとつである。
キムダニエル (1997年3月18日生)
フランス出身、AB型、MBTIはINFJ。ギターボーカルを担当しつつ、The Polesの全ての楽曲の作詞作曲を担っているため、The Polesの音楽プロデューサーでもある。好きな映画はもののけ姫*1。
The Polesのバンドとしての始まりは、2010年、彼らが中学1年生だった頃、ロック音楽に興味があったダニエルの、教会でのイファンジェとの出会いに遡る。ロック音楽への憧れから、一緒に音楽をしようと誘ったダニエルはギターを、そしてファンジェはベースを握り、共に音楽の道を志すようになる。
そんな彼らが本格的にバンドを始めるきっかけとなったのが、ドラマー・シンドンギュとの出会いである。教会の讃美歌チームのオーディションで出会った彼らは江東区に作業室を借り、「The Remains」という名前で合奏を始めるようになる*2。しかし、リラアート高校へ進学後、チーム活動を経験しながら、音楽性の相違などの衝突により当時のボーカルが脱退、また彼らをバンド活動へと導いたシンドンギュも別の道を歩むこととなる。
ドラムとボーカルが脱退し、実質の活動が休止したことをきっかけに、ダニエルは空席を埋めるためボーカルを志すようになる。彼らが再び表舞台に現れたのは2015年、最後に訪れることとなる教会の行事での、ドラマー・キムキョンベとの出会いがきっかけとなった。こうしてようやく3人組となったバンドは、その後も様々な衝突や葛藤に直面しながら共に音楽を奏でるようになる。バンド「The Poles」の誕生である。
一方、脱退したシンドンギュは後にダニエルが新たに始めたバンド「wave to earth」のドラマーとして迎えられることとなる。The Polesとwave to earth。キムダニエルを中心に集まったふたつのバンドは、キムダニエルなしに語ることはできないほど、彼を主軸として歴史を重ねてきた。
そんな彼の音楽性を表すキーワードとしてまず最初に浮かぶものといえば、「水」だろう。
- 水を描くふたつのバンド・The Poles, wave to earth
The Polesの全ての曲の作詞作曲を担うキムダニエルはThe Polesと一緒にColdeが設立したレーベルWAVY所属のLo-Fiバンドwave to earthを率いてもいる。wave to earthというバンド名にも表れるとおり水は彼の音楽的世界観に共通する主要象徴物ともいえるだろう。 - 2022.02 DIVE インタビューより
wave to earthにおける水とは「波」である。
wave to earthの楽曲は、「wave」「surf.」「ride」など、波に関連のある題材を扱った曲が多いことで知られている。チーム名に「いつか僕たちが新しい波になろう」という意味をこめたバンドは、2021年に、Coldeが設立したレーベルWAVYに合流する(流れが完璧すぎて、やはり映画のようである)。
ゆらめくギターリフに波のように静かに押し寄せるドラム、wave to earthは音で波を表現する。彼らの奏でる波は、ゆるやかなテンポでわたしたちの心に優しく辿り着く。
一方、The Polesの音楽は、彼らがバンドを志したきっかけでであるロックジャンルを中心に展開する。「極点」を表すバンド名のとおり、楽曲には天体にまつわる名前が度々登場し、それらに交えながら、彼らは自身が経験した様々な「瞬間」を歌ってきた。そのためか、wave to earthに比べ直接的に水にまつわる題を歌ったものは少ない。
しかし、2017年のデビュー以来、5年の歳月と方向性に関する葛藤を経て、ようやく発表することになった今回の正規アルバムには、彼の音楽的象徴である「水」の面影がかすかに見え隠れする。アルバム発売に先立って先行公開されていた「space」は、恋愛の中のある「瞬間」を切り取りつつ、水の上を浮遊するような幻想的なメロディに乗せて歌われる。
Rollover~Find Me!~Goin’Highの流れ天才では?????????????????Good Morining Sunshineを起点に後半のトラックに行くにつれて時間がゆっくりと流れて再びSpaceに流れ着くという……ㅤhttps://t.co/kEJHYM0mtC
— くま (@not_kuruma_) 2022年1月15日
「The Hide Tide Club」、月が引き起こした現象である、一日の中で一番海水面の高い満潮をテーマにした今回のアルバムは、音楽的象徴に「水」を据えたキムダニエルと、ロック音楽であらゆる「極点」の瞬間を切り取ってきたThe Polesとが交わる場所である。
wave to earthにとっての水が「波」ならば、The Polesにおける水は「漂流」だろう。彼らの音楽は、彼らのこれまでの、美しい瞬間たちを重ねてようやく流れ着いた場所であり、到着した見知らぬその場所で、乾いた人々の心を潤すオアシスのような存在だ。
2. 水を愛するバンド The Whales
- 黒く青い海に立ち、水の流れに身を任せる
2022年1月1日、新しい年の始まりと共に、激しい水しぶきをあげてバンドThe Whalesはデビューを果たした。デビュータイトルは「The Whales」、チーム名と揃えて作られた楽曲は、海中で生きるクジラについて歌いながら、何度も確かめるように「We Are The Whales」と繰り返す。彼らの今後への決意がこめられた歌だ。
The Whalesは、2021年夏にJTBCで放送されたバンドプログラム「スーパーバンド2」にて出会ったチームである。メンバーはベース・ヤンジャンセミン、ギター・チョンソクフン、ピアノ・キムジュンソ、ドラム・チョギフン*3。競演プログラム内で勝ち残るため「海における最高の捕食者」であるクジラから名前をとった。結果は最下位の6位でプログラムを途中脱落することとなったものの、チームとメンバーへの思い入れはどのチームより深く、その愛はチームと同じ名前の楽曲を引っ提げて、どこよりも早くデビューしたことにも表れている。
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海辺で撮影されたMV、全体的にくすんだ色味が素敵
- 指先で水を描くピアニスト・キムジュンソ
そんなThe Whalesを愛するひとりであり、ピアノを担当するキムジュンソが、彼の自作曲において水を語る方法が、あまりにも素敵なので共有させてほしい。
キムジュンソ (2001年5月8日生)
The Whalesのピアニスト、MBTIはINTP。出演した「スーパーバンド2」の前シーズンで優勝したHoppipollaのヨンソと親しい。「スーパーバンド2」にもヨンソの助言により参加した。好きな食べ物はフライドポテト*4。
The Whalesの始まりは、ジュンソがチームに合流した時に遡る。決勝前最後の4ラウンドにて既に息を合わせていた他メンバーに、ジュンソが「ヒョンたち、僕どうですか?」と申し出たことにより(こういうところが本当に好き)合流することになった。サウンド重視の激しい音楽性に鍵盤という新たな色が加わった瞬間である。ジュンソの合流によって、スキルフルな音楽性はそのままに、チームのキーワードである力強い「希望」を盛り込んだ彼らの音楽的アイデンティティが確立されることとなった。
しかし、2022年4月、ボーカルであるキムハンギョムがチームを脱退し、The Whalesはデビュー早々事実上の活動休止状態となった。チームとしての活動再開が待たれる中、メンバーたちはそれぞれの道で活躍することになる。
その中で、キムジュンソは同じくThe Whalesのメンバー・ギタリストのチョンソクフンと音楽番組「Beginagain」に出演する。
Orca : シャチを意味する単語で、The Whalesとして活動中のふたりが即興的に演奏しながら作った自作曲。荒々しく打ち付けられる波と険しい海中のシャチの様子をループステーション、ピアノ、アコースティックギターのみで表現した演奏曲。
Orcaはクジラ目のシャチを表す単語だが、ラテン語ではクジラそのものを指し示すとか。彼らのデビューシングルと同じ題材を扱った曲であるが、グランドピアノとアコースティックギターを使って全く違う曲に昇華させている。
일렁임의 찰나(ゆらめきの刹那) : 咲き誇ってから散りゆくまでの間、そのゆらめきの短い瞬間。刹那的な波長はどんな波動を引き起こすのだろうか。船頭をどこに向けるべきか思い起こしながら書いた曲。沸き起こった小さな波紋が打ち寄せる波となり、砂に砕けてゆく過程をピアノとギターで描いた演奏曲。
繰り返されるピアノのフレーズが、ゆらゆらと打ち寄せる波のように行ったり来たりしながら、刹那的で儚く美しい瞬間を描き出す。後半のきらきらしたピアノの旋律を、すごい幸せそうな顔で紡いでいくジュンソの顔がすごい好きです。
(あと水は関係ないけどLove Themeめちゃくちゃ良いのでこれも見てほしい)
「Beginagain」出演をきっかけにして、作業室で共に夜を明かしながら自作曲をいくつも作曲していくうちに、준서쿤というユニットを組んでコンサートまでやってしまったふたり…(リンクはふたりのサンクラ、ジュンソベースボーカル、ソクフンギターボーカルの最高デュオをやっている)
先日、ジュンソが自作曲だけで1時間を埋めてくれる最高コンテンツ「낮밤선율」がNAVER NOW.で放送された。
1. 물살에 기대어 pic.twitter.com/kZAMYkvcE7
— 흠돌이 (@ban___d) 2022年4月30日
물살에 기대어 (水勢にもたれて)
온 맘 바다 향해 흐르면 < 이 곡 진짜 공감각적 심상을 불러일으킴 .. 물결이 소리 내고 있는 거 같음 pic.twitter.com/mFJs0Jkcyv
— archive. (@lovebandtoomuch) 2022年5月1日
온 맘 바다 향해 흐르면 (心の全てを海に向って注げば)
The Polesのキムダニエルが、概念的なところの「水」を描いているのに対し、The Whalesのキムジュンソは、より現実的で具体的な、実体としての「水」を描いている。そこには、「水」に対する敬意と愛があり、「水」に生きる人々や動物の温かさや匂い、優しさが感じられる。
おしまい(唐突なおわり)
今後書きたいバンドがあれば続きを書きます 夏に向けて、海へのドライブで聞きたいバンド夏曲リストを貼る
本当におわり